世界有数のレコードの街、渋谷宇田川町

公開:  更新:
この記事をシェアする

突然ですが、皆さん音楽ってどのように聞いていますか?現代の音楽鑑賞方法はSpotifyやApple Musicに代表されるサブスクリプション音楽配信サービスが主流と言われていますが、その中で実は「アナログレコード」の売り上げが年々伸び続けているんです。少し前のお話ですが2017年に東京が世界一「レコードショップが多い都市」に認定されました。中でも渋谷区宇田川町は最盛期には200以上のレコード店が軒を並べる街としてギネス認定されており、文字通り「世界一レコードショップが多い町」として世界中からコレクターが名盤を求めて集まる言わば聖地でした。

シスコ坂と呼ばれたエリア。沢山のレコードショップがあった。

どうしてレコードの街になったのか?

現在でも文化の発信地と言われる渋谷ですが、何故ここまでレコードショップが林立する街になったのでしょうか?渋谷が「レコードの街」として急成長するようになった最大の要因は1981年のタワーレコード渋谷店のオープンだったと言われています。注目すべきはその販売方法。本場アメリカのレコードショップを彷彿とさせる外観、山のように積み上げられたレコード売り場。何より輸入盤の為、国内版より安価に手に入る事もあり瞬く間にシーンのトップに躍り出ました。

それまでもロック喫茶やジャズ喫茶が数多く存在した百軒店を中心に輸入レコード買えるお店はあったようですがタワーレコードは「レコードのドンキホーテ」のような存在としてその名を東京中、日本中に知らしめたことで渋谷に行けばレコードが買える、という認識を植え付けたと言われています。

渋谷のナイトクラブとも密接にリンクし広がったレコードの街

タワーレコードはその人気からさらに売り場の拡大をすべく店舗を宇田川町へ移します。するとその周辺に大小様々なレコードショップが集まるようになりました。

宇田川町にあったタワーレコード。

独自の買付方法でタワーレコードに対抗したお店や特定のジャンルに強いお店など本当に多くのお店がオープンし、どのお店も人気を博していました。その中でも特に多かったのはクラブミュージック系ショップ。1990年台から円山町にナイトクラブが次々と建設されたことも相まって音楽ファンのみならず、大勢のDJ達も渋谷の街に押し寄せるようになります。クラブカルチャーが生まれた事で若者の街としての渋谷も加速度を増していったようです。

当時から宇田川町で営業を続けるマンハッタンレコード。クラブミュージック系レコードショップの代表格と言える。

itunesの登場と渋谷レコードショップの衰退

2000年代初頭も宇田川町はレコードの町として世界中にその名を轟かせます。週末や祝日になるとレコードショップの中がまるで満員電車のように混み合うことも珍しい光景ではありませんでした。

2000年代初頭の週末のレコードショップ内はこのような混雑になることも珍しくなかった。

レコードショップの袋を持った若者が渋谷中で見られた時期もこの頃です。しかしアップル社による「i Pod」と「i Tunes」のリリースが市場を一変させます。MP3とレコード。データとモノという時点で決定的な違いはありましたが、特に音質的な部分でアナログはデジタルより遥かに良いとされていました。が、小さな機器に何百、何千と曲を持ち歩きいつでも聴ける、という事は歴史上でも極めて革新的なことであり、その便利さから多くのユーザーがデジタルへと移行しました。レコードを使いプレイしていたDJ達の間にもデジタル音源が使用できるパソコンのソフトが流通しました。大きな変革というよりもフェーズが変わったと言えるような出来事だったのです。この出来事は宇田川町に限らず世界中のレコードショップに大きなダメージを与えます。2007年には老舗レコードショップCiscoが実店舗を全店閉店。現在、宇田川町のレコードショップの数は全盛期の半分以下の数だと言われています。

レコードの復権と渋谷レコードショップの今

デジタル配信が中心になっている現在の音楽鑑賞方法、既にアナログレコードでの音楽鑑賞法などは絶滅したかと思われる方もいるでしょう。しかし、日本レコード協会によると、アナログレコードは平成24年に約45万枚だった国内売上が令和3年には約190万枚と4倍以上に増えました。

一般社団法人日本レコード協会による売上推移

デジタル配信が国内に上陸した27年以降も売り上げが伸び続けるという予想に反した出来事が起こっています。このようなニーズに伴い、渋谷ではまた少しずつレコードショップが増えてきているといいます。全盛期ほどでは無いのかもしれませんが、また活気を取り戻しつつある街ではレコードショップの袋を持って歩く人の姿も見かけるようになっています。大型レコードショップ、HMVのレコード専門店が宇田川町にオープンしたことも街の明るい話題となりました。

HMVのレコード専門店。この場所には昔D.M.Rと言うレコードショップもあり、レコード好きにはお馴染みの場所だ。

世界のアナログレコードシーンを引っ張ってきた渋谷区宇田川町。どんなフォーマットが音楽業界の中心になっても、世界中の人がレコードを買いに訪れる聖地として繁栄していってほしい、そう願っています。

公開: