渋谷カルチャーの発信地「マンハッタンレコード」

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かつて「レコードの街」と呼ばれた渋谷。アナログレコードショップが大小立ち並び、その店舗数はギネスブックの世界一に認定されました。しかし、音楽フォーマットのデジタル化、Spotifyなどのストリーミングサービスの台頭により、かつての需要は激減。数多くのお店が閉店しました。

しかし近年のリバイバルによりレコードが再ブームを迎え、「レコードの街」渋谷が再度注目を集めています。そんな渋谷宇田川町でアナログ文化を守りながら経営を続けるお店「マンハッタンレコード」。今回は全盛期のレコード文化を築き、今もアナログ文化を守り続ける「マンハッタンレコード」のストアマネージャーであるMarTさんにお話を聞いてきました。

幼少期から今まで音楽を愛するオタク

「僕は昭和の最後に生まれた世代なんです。そのころのJ-POPはすごくいい時代で、幼少期に見たアニメのエンディングは名曲揃いでしたし、音楽番組も毎日のように放送されていて、自然と音楽が好きになっていきました。TKファミリーや宇多田ヒカルがシーンを盛り上げていた記憶があります。小学生では休み時間にCDをかける係に立候補してDJの真似事をしてみたり、高校ではレコードを集めてミックステープを自作する音楽オタクでした(笑)。そのまま、音楽が好きな気持ちが止まらず、音楽の専門学校へいくために上京しました。」

そう話す、MarTさん。自他共に認める音楽オタクの彼が憧れたのは、マンハッタンレコードでした。二十歳の頃にはマンハッタンレコードで働きながら、DJとしても活躍。その後、同業他社を経て数年前にマンハッタンレコードに戻ってきたといいます。

「DJだけで食べていくのはすごく不安定で、アルバイトをしていました。みんなDJを優先するために融通の利くバイトを探したりするのですが、僕の座右の銘は“二頭追うものが、二頭を得る!”なので、お金のために働くとしても音楽に関わる仕事がいいと考え、レコード屋を選びました。当時のレコード屋店員って無愛想で話しかけにくい、でもめちゃくちゃ音楽に詳しいのがカッコ良くて憧れて……。実際に働いてみても、好きなレコードに囲まれて働ける最高の空間で、同業他社に転職したりもしましたが、今までずっとレコード屋で働いています。」

NYの最新情報はマンハッタンレコードから広まる

「マンハッタンレコードは、創業者である平川雅夫が脱サラをして、1980年に渋谷警察の裏あたりに小さなレコード店を出したのが始まりでした。当時の東横線と井の頭線に乗っている人があか抜けていたように感じて渋谷に出店したそうです。もちろん、土地勘があり、渋谷が好きだっていうのもあったと思います。創業当初はソウルやジャズファンクが中心のラインナップだったそうです。アメリカから廃盤になったレコードを買い付けて、4坪ほどの畳の店で売っていたマニアックなお店だったと聞いています。そこから1993年に今の宇田川町に移って、新譜をメインに扱うようになりました。90年代はヒップホップが大流行した年代で、アナログレコードを扱うDJだけではなく、一般のお客さんも本当にたくさん来店されていたようです。聞いた話ですが、人気レコードの発売日や廃盤セールの時は、宇田川町の店舗からNHKの前まで並んでいたそうです。すごい時代ですよね。」

レコードの聖地を牽引し続けたマンハッタンレコードですが、その後2000年代後半からは音楽フォーマットの変化により一般のお客さんの来店が激減、さらにDJもデジタル音源でのDJプレイが可能になったことでアナログレコードの売れない時代へと突入します。ギネス記録にもなるほどに盛り上がったレコードの街も、一つ、また一つと店を畳む中で、マンハッタンレコードは自社の強みを魅せました。

「平川が輸入盤をどこよりも早く仕入れるところにこだわりを持っていて、スタッフもNYの最新情報を自分たちがここから広めるという気持ちでいました。そういったところから考えた僕なりの見解ですが、マンハッタンレコードは新しいことをいち早く取り入れる姿勢が強いと思います。例えば自社レーベルやアパレルを取り入れるのも当時の日本のレコード屋にはない試みでしたが、今では自社を支える柱となっています。

あとはマンハッタンといえばPOPですね!2000年代は曲紹介のPOPがベッタベタに貼られて“ギャル受け抜群!”や“どキャッチー!”などが有名でした。」

新旧のコントラストが渋谷の魅力

渋谷の音楽カルチャー、そしてストリートカルチャーを作り上げた要素の一つであるといっても過言ではないマンハッタンレコード。創設者の平川さんはもちろん、スタッフの方々も渋谷で多くの時間を過ごし、長年渋谷をみてきた人たちです。そんなマンハッタンレコードストアマネージャーのMarTさんは、今の渋谷にどんなことを思うのでしょうか?

「渋谷って常に“新入生”がいて、毎年上京してきた子たちが“遊び”を学びに集まる街ですよね。入り口も広く、とても遊びやすい街だと思います。歳を重ねるとその賑やかさを息苦しく感じることもありましたが、今は10代20代の自然と湧き出るエネルギーにとても魅力を感じていて、それこそが渋谷らしさだと思っています。

あとは今も再開発で駅前や宮下公園など、どんどん新しくなってきていますが、老舗や昔からある場所はなるべくそのままの形で残って欲しいなぁと思います。新旧が混在するコントラストの強さがきっと渋谷の魅力になっていくと感じています。」

「マンハッタンレコードは2023年で43周年になります。始まりはレコードを売る場所であり、今後もそのベースは変わりませんが、引き続きお客様を大切にしていきたいです。そして、“マンハッタンレコード”というブランド力を武器に、自分たちのカラーを出して、ここ渋谷宇田川町からカルチャーを発信し続けていけたらと思います。」

渋谷カルチャーの軸ともなる、音楽。その音楽シーンを担う「マンハッタンレコード」は、ニューヨークの風を感じながら我々の一歩先を歩んでいます。その歩みが切り開く未来と渋谷は、この先どんな化学反応を起こすのでしょうか。気になりますね。

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